移転価格税制のワンポイントアドバイス

移転価格税制とは、国外関連者との間のクロスボーダー取引に関わる価格を「独立企業原則」に基づき設定し、各国で適正な納税を義務付けるための制度です。例えば、日本の親会社で開発・製造した製品を、米国の子会社が仕入れ、それを米国市場で販売する取引は、米国子会社が日本の親会社から仕入する製品が関連者間で行われる取引であり、この取引価格を恣意的に決めてしまうことも可能です。

この場合、日本の親会社から米国の子会社への販売価格が低すぎれば、この取引に帰属する所得は、日本の親会社から米国の子会社に移転してしまい、この結果、日本において申告する所得が過小になり、逆に米国で申告する所得が過大になってしまいます。日本での申告所得が過小になるわけですから、税務調査でこの問題が指摘されれば、国税局に正しい価格に基づき、所得を引き直され、追加納税を課せられ、二重課税問題が生じます。このように、国外関連者間におけるクロスボーダー取引において、各国での申告所得の不均衡を防止するために、移転価格税制が設けられています。移転価格税制の基礎は「独立企業原則」にあり、この原則は、国外関連者間の取引においても、非関連者と同様の条件で価格設定を行い、取引を行うことをいいます。今日では、移転価格税制は、ほぼ全ての国に導入されており、厳格に運営されています。海外進出する企業においては、ぜひ、ご留意いただきたい国際課税分野の一つです。

移転価格税制において、企業様に特にご留意いただきたい点は、次の二つあります。

  1. 移転価格税制の対象となる取引は多岐にわたり企業が見落としている可能性がある。
  2.  独立企業間価格の算定方法は、各国の移転価格税制に規定されており、国外関連取引はこれらの算定方法に基づいて、価格の算定を行う必要がある。

まず、移転価格税制の対象となる取引は多岐にわたる、ということですが、国外関連者間における活動で、商業的及び経済的な便益がある取引であれば、ほぼ全て移転価格税制の対象になり、次のとおりに分類することができます。

  • 有形資産の売買取引(棚卸資産、製造設備等)
  • 無形資産の使用許諾取引(技術供与、ブランド・ライセンス契約等)
  • 役務提供取引(営業支援、技術支援、経営管理支援等)
  • 金融取引(ローン、債務保証等)

上記のとおり移転価格税制の対象取引は、棚卸資産の売買のように、帳票等でトレースできる取引だけではなく、役務提供や無形資産取引も含まれ、企業内で容易にトレースできず、取引が発生していること自体認識されていない場合もあります。例えば、米国の子会社が米国で自社製品を開発し販売する場合、日本の親会社の商標を使用し販売すると、米国子会社は日本の親会社が保有する無形資産を使用しているので、対価の支払いが必要になり、この対価をいくらに設定するかという移転価格の問題が発生します。これは一例であり、繰り返しますが移転価格税制の対象取引は多岐に渡りますので、国外関連者間で対象となる取引が発生していないかどうかを、企業グループ内で定期的に確認することが大切です。

二つ目のポイントは、移転価格の算定方法は、各国の移転価格税制で規定されており、この算定方法に基づいて、価格設定を行う必要がある点です。企業独自の価格設定が合理的でフェアな方法であったとしても、その価格が移転価格税制で規定されている方法によって算定された価格と整合しない場合は、課税される可能性があるので注意が必要です。例えば、親子間の棚卸資産の売買取引では、親子間で粗利が折半できるような価格設定をよく見受けます。企業にとっては、利益を折半するわけですから、フェアな方法だと映るのかもしれません。ただし、棚卸資産の売買取引では、内部に比較できる取引がない場合、多くの場合、取引単位営業利益法という算定方法を使用し、検証対象法人(一般的には海外子会社)の営業利益率が類似する第三者の法人の営業利益率と比べて、妥当であるように価格を設定することが求められます。この場合、海外子会社が半分の粗利を得たとしても、一定の営業利益水準を満たしていないと、適正価格ではないと見なされる恐れがあります。詳しくは、各国の移転価格税制をご参照いただいたいのですが、国外関連取引の価格設定には、必ず、移転価格税制で規定されている算定方法を用いることが求められますのでご注意ください。